二千三百五十五年

"Making peace to build our future, Strong, united, working 'till we fall."

Obsolete: 6年前の未来像と遅れて来た答え合わせ【2025-11-06】

どうも、良性腫瘍です。

(効果音)

2019年に作られたObsoleteというCGのロボアニメがあって、今はYoutubeで全話見れるようになっています。それを人から教えてもらいました。なので、見ました。面白かったです。12分が12話、だいたい2時間半でサクっと見れるので見てきてください。本当のロボットアニメを見せてあげますよ。

見てきましたか? 別に見ていなくてもいいのですが、大胆にネタバレをするところから始めてしまいましょうか。このアニメのアニメとして一番面白いところは、「宇宙人から渡されたエグゾスーツ」という体で導入された一つの技術革新が、どういう風に戦場を変えていき、あるいは戦場の中で変わっていくのか?という、ありがちといえばありがち。しかし、ずっとミリオタの興味を引いて止まない兵器の進化史という題材を、世界中に視点をばら撒いて、中立的にカメラを振り回すオムニバス形式で進めていることにあると思います。非常によくできている。

非常によくできているんですよね。私は同時にミリタリー・ロボット工学・SFの人間をやっていますが、どの側面の私もとても満足したし、いろいろと考えたいこと、語りたいことが自然に湧き出てきました。燃えるような感情の動員はないですが、とても納得感のあるアニメーションだったと思います。そういう意味ではとてもクラシカルにSF的な作品でした。

さて、語りに移りましょう。話したいことがたくさんあるので、散文的にならぬよう、章立てて扱うことにします。

異星人の丁寧な仕事

できのいいSFは世界に一つだけ嘘を織り込んで、そこを起点に現実のパラレルを描く──というのは誰の言葉だったでしょうか。ともかく、Obsoleteもそういう建付けでできているSFです。このアニメにおける嘘とはすなわちエグゾで、交流も干渉も求めず、ただ通商だけをやりに来たなんとも都合のいい異星人: ペドラーが1tの石灰岩1と引き換えに1台落としてくれる、とても出来のいい人型機械です。

このエグゾが非常に作り込まれているのが面白いんですよね。作り込まれているというのは、SFの設定として丁寧に作られているというものそうなんですが、異星人が地球人に送るプレゼントとして作り込まれているという意味においてもそうなんです。乗ってハンドルを握るだけで精神感応で操作できるとか、共食い整備が簡単で地球人でも扱えるようになっている、とかもそうなんですが、一番目を引いたのがタイヤ。タイヤついてるんですよこれ。めちゃくちゃ地球人さんサイドの常識に従って設計されている。ありがとう。

それに、戦闘ロボものにありがちな「で、なんでこれは装甲戦闘車両ではいけないんですか?」という問いにちゃんと答えているからこそ、ロボットにタイヤをつけてしまうことができるのも面白いところです。エグゾの価値の基盤は圧倒的な安さにあるから、機械としての価値は「足の着いたバイク」として描写しちゃってもいいんですよね。これバイクじゃダメなんですか? ぶっちゃけ別にバイクでもいい。でもバイクは1tの石灰岩では入手できませんし、整備に必要なロジスティクスから切り離されているサブサハラ民兵なんかじゃ運用には苦労するでしょう? というのが軸足にある。

話を戻しますが、それにしてもエグゾは地球人向けに最適化されています。明らかにホモサピの形状とサイズを模倣していて、ホモサピが自然に操作でき、既存の技術体系とも混ぜやすくなっている設計からしてそう。作中では、装甲についた傷跡などからこれが異星人の払い下げた中古品であることも示唆されてはいますが、生産技術のことをわかっていない理論屋が加工跡なんかを見て勘違いしているんじゃないか?とさえ思います。人類がリバースエンジニアリングできないオーパーツではありつつ、応用されても脅威にならない程度にはグレードダウンしているモンキーモデルではあろうけれど、ちゃんと石灰石を掘ってもらえるよう、インセンティブとして丁寧にあつらえた異星人エンジニアの自信の商品なのではないでしょうか。私はそう思います。プレゼントと言ってもいい。これが中古品であるのなら、異星人の正体は未来からタイムトラベルしてきたホモサピエンスとかでなければ説明がつかないと思います。ジャバ・ザ・ハットなんかは絶対に自分たちの文明のためにエグゾを設計しないでしょうし。

はいはい、"ゲームチェンジャー"の方ですね?

T型フォードが発売されてから数年、WW1期のランチェスター装甲車。フォード的な自動車に銃塔がポン付けされただけにも見える何とも無骨な設計。この戦争から近代的な装甲戦闘車両の歴史が歩みを始める

このアニメの可食部はたくさんありますが、一番の大トロにあたる部分は、このようにして導入されたエグゾが、数年の時間をかけて段階的に洗練され、工業製品としてより優れた兵器システムへと改造されていく様子……それをオムニバス形式で克明に描いていることでしょう。

最初は2ケツするだけのエグゾ騎兵から始まり、銃眼を簡単につけてAKをブッ差したインド軍の改造2なんかを踏まえ、諸々の改造が試行されていることがわかります。一方で、恐らくトラックか何かのフレームを剥がして作ったと見えるエグゾ・テクニカルなんかも出てくる。果てには潜水作業エグゾまで。M2を改造したと思しきエグゾ用のバトルライフルなんかも面白かったですね。この辺はまるっきり装甲戦闘車両の歴史、もっと言えば新しい技術の兵器化の歴史とパラレルで、それを早回しで見せられているような感覚です。これこれ、こういうのが見たかったの。

そしてこの過程でエグゾの軍事的限界も早々に明らかになります。さっきさらっと触れましたが、ぶっちゃけ別にバイクでもいいんですよね。なんならアニメの中でも言葉にされてさえいて、エグゾは本質的にはDShKを積んだランドクルーザーと大差がない。M2が軽々運べます、ますが。TOWなんか別にホモサピでも運用できますし。

エグゾは逆立ちしたって主力戦車には勝てないでしょう。重機関銃弾なんてどこふく風、RPGを数発撃ち込んでも止まるわからない圧倒的な防御性能を持つ第3世代戦車は恵まれた電源で高性能なセンサーをぶん回し、ともすれば数km先から120mm級の主砲を撃ち込んできます。エグゾは、対戦車兵器を持って待ち構えるよく隠蔽された歩兵が戦車にとって脅威であるのと同じくらいの脅威しか、戦車に与えられないでしょう。そこにいるのは当然無敵のスーパーロボットではなく、あるいは親しみやすいテクノロジーの擬人化でさえなく、すこし・ふしぎな原理で動く超壕能力の高いランドクルーザーです。そこがこのアニメの「大人さ」の柱でもあると思います。

それに、これは劇中では描写されていませんでしたが、エグゾは実は市街戦が不得手なのでは?とも思いました。身の丈2mか3mくらいのエグゾでは建物を掃討しに突入するのも一苦労でしょうし、なんぼカメラをつけようと、視界の制限という装甲戦闘車両の共通の課題を引き継いでいるエグゾは奇襲・待ち伏せブービートラップへの対処に苦労するのではないでしょうか。エグゾ本体の装甲は7.62mmでも貫通可能な程度しかありませんし、出力に限界がある以上やはり装甲化にも限度がある。ハンヴィーやブッシュマスターがそうであるように、海兵隊の重エグゾだってアレッポで戦えばIEDや重機関銃、果てはRPGで出血を強いられるでしょう。エグゾは単に歩兵のバージョンアップではありえないということです。

そして何よりエグゾ兵器には根本的な限界があります。エグゾは、本質的には兵器システムのうちで動力を占めることしかできず(異星人がヒートホークかライトセイバーなんか内臓してくれていたら色んな話が変わっていたでしょうね)3、それも既存の手段と比べて穏当なオーダーのものでしかないというものです。それは装甲化と火力に限界があることを意味していて、単純な馬力で言えば人類は既にエグゾ以上のものをいくつも持っているので、エグゾ以上の重装甲・重火力をエグゾ以上の速度で振り回す兵器を生産可能だということを意味します。主力戦車なんかはいい例ですし、あるいはイスラエルが(人間の)ゲリラと戦うために誂えたナグマホンのような、重エグゾの装甲を貫徹可能な30mm級のチェーンガンを備え、重機関銃程度の弾丸に抗堪する、ちょうどいいエグゾ・デストロイヤーがすぐに出てくるでしょう。それには既に歩兵戦闘車という名前がついているように思いますが。ところで騎兵を真に滅ぼしたのは、重機関銃陣地がもたらした戦場での敗北ではなく、自動車という機動力の代替オプションの出現です。エグゾは……どうでしょうか? どれくらいのニッチを既存の機械システムから奪えるでしょうか? 現代において最もしんどいのは、エグゾ兵器は原理的に無人化が極めて難しいという点です。やがて陳腐化もするでしょう。

エグゾで世界と戦えるでしょうか? 難しいと思います。AKとスティンガーで武装したムジャヒディンはアフガニスタンからソ連軍を撃退することができましたが、彼らが逆侵攻をかけてタシュケントを陥落させるなんてシナリオはありえませんし、エグゾもその攻勢限界を少々非正規兵に有利に寄せる効果しかないと思います。劇中で示されたレシャップの構想、つまりエグゾの兵器化によって南北半球の(とくに軍事的な)技術格差を埋めるというのも眉唾物の構想です。が、それが間違っているというよりか(シーズン2の展開に向けて意図的に残された"歪み"なのかもしれないとは思っていますが)、私はここに時代性を感じます。これは圧倒的なテクノロジーを有していたアメリカがイラク軍を粉砕した湾岸戦争イラク戦争の記憶が依然として色濃かった時代の名残のように思えるからです。光学迷彩とか、レーザー兵器とか、核搭載型多脚戦車とか、なんかすごい超兵器を有している近未来的な軍隊は、そうでないニアピア国家を蹂躙することができる──本当にそうでしょうか?

十分に軍事化された近代科学技術産業は、高々数年程度のスパンで画期的な新兵器(例えば戦車、例えばUボート、例えば空母、例えばFPVドローン……)への対抗手段、あるいはコピー品を生み出してしまうので、そういった新兵器が持つ戦略レベルでの奇襲効果はある程度は持続するものの、十分な縦深と能力を持つ国家を一方的に破壊することはできない。正規戦においては、画期的な"ゲームチェンジャー"が登場しても、多少高度な次元に戦場の技術開発のいたちごっこが拡張されるだけで、結局は、産業が資源を磨り潰し合う旧来の消耗戦へと形を変えながらも回帰する……というのが、二度の世界大戦と直近の戦争を経て我々が得た2025年現在のリアリティラインです。多少の技術的優位があるだけで地域大国の全縦深を数日で粉砕できた米軍がおかしいだけなのです。少なくとも、ロシア軍にはできませんでした。

では、エグゾには軍事上の価値はないのか? そうは言っていません。エグゾでできるようになったことはいくらでもあります。鉄パイプとポリタンクで対戦車ロケットを作っているようなサブサハラ民兵でも運用できるランドクルーザーは昨日までの世界に無かったものですし、地形適応能力には目覚ましいものがあります。輸送能力が限界される島嶼戦なんかにも今まで以上の装甲兵器を送り込むことが可能になるでしょう。なんなら石灰石が掘れれば「部品」の現地調達さえワンチャンあります。この圧倒的な安さと兵站の軽さ4、特に主力戦車のような高級なアセットで対応していては割に合わないという性質、気づけばまったくFPVドローンとパラレルになっています──あれも数万円くらいですからね。ちょうど遅れて来た答え合わせのような形です。製作陣は今の世界に何を思っているのでしょうか? FPVドローンが戦車に迫撃砲弾を落とし、USVが大型艦に突入する一方で、戦争がゲームみたいになるかというとそうでもなく、結局歩兵と塹壕、地雷原、そして戦車が必要とされる旧来の陣地戦が続いているこの世界はさっきまで見ていたアニメの出来の悪いシーズン2にさえ思えます。本当に出来が悪いので早く打ち切られて欲しい。

ウクライナに出現したロシアの「亀戦車」 自爆ドローンに対応するために全周を装甲化しており、かつ強力な電子戦装備で電波妨害を行うことにより、FPVドローンの自爆攻撃に対する「タンク役」を担っていると推測されている

エグゾの規制は可能なのか?

レイボ社の「エクソスケルトン」 類似の商品はアシストスーツともいう。動力はないが、内蔵されたガススプリングで姿勢を支え、作業の負担を和らげる。介護、農業、運送分野などでの利用を想定

ザンクト・ガレン協定はこのアニメで繰り返し出てくるキーワードです。設定資料集などはもう完全にミリしらでこの文を書いているので具体的な建付けは何も知らないのですが、少なくとも協定署名国の間ではエグゾの軍事利用は禁止されているということになっています。作劇上必要な舞台装置でもあるでしょう。

で、それは本当に可能なのでしょうか? 

第2話あたりでエグゾの能力が明らかになったとき、私が最初に考えたのは、例えば少子高齢化に対応するための労働力の補助として、究極的には人類の活動領域の拡大と身体という限界の克服のために、自律的なヒューマノイド・ロボットの社会への導入を進める内閣府ムーンショット型研究開発目標のことです。

もっとコンクリートな話をしましょう。介護、運送、建設……諸々の業界には無くなった方が幸せになれる重労働がたくさんあります。全てではないかもしれませんが、それらの大部分はエグゾの力で消し去れます。この巨大な産業上の要請に抵抗できる政府がこの世に存在するんでしょうか? 例えば人口動態が崩壊しつつあり、ますます逼迫する介護需要への対応も、巨大かつ老朽化したインフラを整備・更新するための土建業の維持も、現状の生産年齢人口ではぶっちゃけどうにもならないことがわかっている斜陽の福祉国家があったとして、彼らがエグゾの導入をどれだけ引き延ばしていられるでしょうか? ところでわーくには世界第6位の石灰石生産量を誇ります。この意味はわかりますね?

輸送機械業界は大きな後退を強いられるでしょう(エグゾのペイロードに限界がある以上、完全な代替も出来ないとは思いますが。一家族を乗せてイオンに行くのさえむずそう)。トヨタには自動織機からやり直してもらう必要もあるでしょう。しかし社会にエグゾがあれば、中腰と立ち姿勢を無限に繰り返す介護職や農業従事者の腰を守ることができるでしょうし、今日車椅子に乗っている身障者が、誰にも頼らないという自己充足感を満たしながら、自分の足ではないかもしれませんが、自分の意思でどこへでも外出することも可能になるでしょう。一方で生きている人間の精神感応を必要とするエグゾは、しかし雇用を破滅させることなく、社会の労力のみを節用し、より本質的なタスク──例えばエグゾのリバースエンジニアリングとか──に振り分けることを可能にする繊細な道具でもあると思います。21世紀といえども、おそらくはみなさんの想像以上にホモサピの身体性に依存している私たちの社会が、それを超克するまでの数十から数百年の間の橋渡し。それを彼らは果たしてくれるでしょう。さながら川渡しのように人間を背負って歩いて。

私が最初にエグゾを「プレゼント」と形容したのは、これが軍事よりもむしろ民生の分野において巨大な可能性を秘めていると思ったからです。しかるべくして民間に普及するエグゾが軍事利用もされることを止めることはできないでしょう──人類のいつもの悪癖があるので。しかし、この設計は明らかにそのため・・・・のものではない。なぜ更なる石灰石を掘らせるためのドリルでもなく、あるいはライトセイバーでもなく、マニピュレータだけがあるのか? 異星人が落とした今生のプロメテウスはその手に何も持っていませんが、しかし眩しい火を掴んでいます。

惜しむらくはこれが石灰石に依存している枯渇性の資源であることで、であるならば当然に、戦争のような非生産的蕩尽にエグゾを突っ込む余地など──ほかの全ての資源についても同様ですが──本来有り得ないわけなので、エグゾの軍事利用を禁止するのも当然と言えば当然と言えます。ザンクト・ガレン協定の実効化を目指し、後戻りが出来るうちにアザニアとかにもガンガン経済制裁を課していくべきではないでしょうか。エグゾが使えるくらいで負けるとは思えません。人類なめんな!✊


  1. 品質にこだわらなければだいたい数万円くらいで入手できます(エグゾ入手のために乱掘されるだろうこの世界では価値も上がるでしょうが)。資源産出としてもかなり均等、世界中で採掘可能なものでありながら、生物起源のものでもあるので、異星人が求める資源としてもそこまで違和感はないという巧妙な設定になっています。こういう作り込みを随所に感じるので、いいアニメです。
  2. このインド回ではエグゾの兵器化について二つの重要な示唆が与えられていると思います。一つは、このインド式の改造、つまり「エグゾが背負う人間の部分をバイタルパートとして装甲化しつつ、周辺環境をモニタリングできるようにする」という以降の軍用エグゾの基本指針が示されていること。もう一つがエグゾの基本的な性能が明らかになったことです。運動性能なんかもだいたいはわかりますし、人間が使うようなスキー板で滑走できていることから、接地圧、つまるところ重量がホモサピエンスと大差ないオーダーであることもわかります。まあだいたい馬くらいのものなんじゃないでしょうか。
  3. ここに第二の問題もあって、エグゾが安い安いといっても、本質的には兵器システムのうちで動力と駆動系の部分しか代替してくれないという問題もあります。海兵隊が運用している重エグゾなんかはカッコイイですが、あれ、いくらするんでしょうね? そりゃあ安くはあるでしょうが、あんまり既存の装甲戦闘システムと次元の違う値段にはならなさそうです。
  4. ところで、エグゾの動力源って何なんでしょうね。これは本当に作劇上の都合でカットされている部分だと思っていて、おそらく永遠に明らかにはならないでしょう。何かしらのエネルギーを消費していることにすると兵站の話をする必要が出てきて、エグゾがますます地に足のついた存在になってしまいます(トウモロコシとかで動くならまあいいんだけど、そうでないならサブサハラ民兵が運用できるのが不自然になってしまう)。一方で、無から動力を生成しているとなると、奴隷が回してる謎の棒のやつをエグゾが押すエグゾ発電が行われていないと不自然、ということになってしまいます。それはそれで見たいな……