二千三百五十五年

"Making peace to build our future, Strong, united, working 'till we fall."

【SW2.5】ヘックスと射撃【2024-10-15】

ソードワールド2.5 (SW2.5) の戦闘においては、射撃1が行われる。私の提案しているヘックス戦闘ルールにおいても、これを適切に処理できるようにしたい。

では、具体的にどのような処理が適切なのだろうか?

序論

FCSとその要求定義

考えるに、戦闘に戦術的な多様性を提供し、プレイ体験をよりよいものにするために、射撃は、少なくとも以下の二つの方法によって「遮蔽」、つまり制限ないし無力化できる必要があるだろう。換言すれば、そのような対応ができる戦闘処理システムが用意されている必要がある。

  • 前衛による後衛のカバー
    • ヘックス戦闘ルール(良性腫瘍, 2024)で論じたように、これができないと後衛ユニットが戦場に存在することが許されなくなる(魔導士を弓矢で撃ち放題!)し、これがあれば前衛が適切な位置に立って射撃を阻止する戦法、つまり「陣形」が発生する契機になる。同時に、それを無力化するための側面攻撃にも意味を持たせられる
  • 地形による射線の閉塞
    • マップの書き方次第で多様な戦術状況を生み出すことが出来るようにするために必要。地形による遮蔽はそれを無効化/活用するための「陣地」機動に意味を与えるので戦術を発生させることができるし、これがないルールは単に次元が増えただけの上級戦闘だ

このような、ユニット間での位置関係を適当に制御することを要求する「陣形要求」機能と、マップに存在する地形や障害物を適切に利用ないし迂回することを要求する「陣地要求」機能の発揮と、それに係る処理を担うシステムのことを、ヘックス戦闘ルールのような戦闘処理システム全体に対しての部分的なモジュールとみなして、射撃抑制システム (Fire Curtail System/FCS) と呼ぶことにしよう。

FCSは上記の二機能を発揮することが要求される。また、当然の要請として、「処理結果が十分に直感的であり、複雑な手間のかからない(もっと言えば、ココフォリア上で簡単に行えるような処理しか含まない)ものでもあり、かつルールがなるべく理解しやすいこと」も満たす必要があるだろう。

SW2.5の設計分析-上級戦闘から

SW2.5本来の戦闘システムにはFCSはどのような形で実装されているのだろうか?まず上級戦闘ルールを分析し、射撃攻撃に影響を与える要因を列挙しよう。

  • 射程-射程外の敵は攻撃できない
  • 視界-不完全な遮蔽、あるいは完全な遮蔽によって視界に映らない敵には照準できない
  • 掩蔽-完全な遮蔽によって物理的に攻撃が遮られれば何もできない2

SW2.5本来の戦闘システムにはこのような方式によってFCSが導入されている。戦闘特技や魔法などのデータも、このFCSを前提として調整されているので、この設計から大きく逸脱する形でのFCS設計はゲームバランスの大きな崩壊か、それに対応するための困難な再調整を伴うだろう。

要件定義

ヘックスの分析

さて、筆者はヘックス戦闘ルールを提案した。このルールの中にも当然所与の機能、すなわち「陣形要求機能」と「陣地要求機能」を発揮するFCSを、直感的かつ簡単な形で組み込む必要がある。

具体的な設計の話に移る前に、FCSが満たしておくべき要件を、ヘックスというルールの性質に注目しながら整理していこう。

  • 距離に対するロバスト
    • 制限移動の3mを1マスの大きさの基準とすることに強い利便性があるのでm/マスの縮尺を変更することは考えづらい
    • しかしSW2.5での射撃攻撃は長射程のガンなどなら60m(20マス)にも届くが、煩雑性を避けるために、2~3マスの近距離射撃も10~20マスの長距離射撃も同様に処理できる必要がある
  • 方向に対するロバスト
    • 例えば「マスとマスを結ぶ任意の最短経路を引いて、それが通るマス上に障害物があったら遮蔽があるものとして扱う」というような処理を考える場合、角度に応じて選択肢の個数が大きく変わってしまうので、結果がきわめて非直感的になる
      ちょっと角度違うだけで到達可能経路の数が爆増するので、任意に経路を決定できるような方式はまず機能しない

これらの要件を満たすことが出来なければ、FCSの処理結果は非直感的なものになるだろう。

機能の分析

また、要求機能の達成の仕方についても、それぞれある程度考えておく必要がある。具体的には以下のように。

陣形要求機能-ユニットによる射撃抑制

  • 任意の距離での割り込み可能性
    • SW2.5における前衛/後衛の位置関係には、大雑把に言えば「前衛が味方後衛にぴったりと貼りついて近くでカバーしている場合」、「敵味方の前衛がお互いの後衛の中間地点で援護を受けながら衝突している場合」、「敵の後衛に貼りついて掃討にかかる場合」の3パターンがあるといえ、前衛はそれぞれに応じて味方後衛-敵後衛の間で異なる立ち位置にあるわけだが、このうちのいずれの場合においても、前衛は敵後衛から味方後衛への射撃を「遮蔽」可能であるべきだし、同時にその遮蔽を──簡単にではないにしても──迂回する手段が確保されていればなおよい

陣地要求機能-地形による射撃抑制

  • 陣営についての対称性
    • 地形などによる掩蔽の場合は、基本的に「AからBへの射撃は不可能であるのに、BからAへの射撃は可能である」というような非対称な状況を作り出すべきではない

設計についての考察

では、ヘックス戦闘ルールに組み込めるFCSの方策として、具体的にどのようなやり方がありえるだろうか?

利用できるツールとしては、上述したとおりに、SW2.5に元々組み込まれている「射程」「視界」「掩蔽」の機能がある。逆に、これ以外の機能を用いた処理はバランス調整か煩雑性、あるいはその両方を代償として要求するだろう。

そこでこの3機能を軸に適当なFCSを設計したいわけだが、「射程」自体はヘックス戦闘ルールによってソリッドな処理方式が既に確定しており、これを増減させることは考えづらいし、煩雑でもある。なので実質的に使えるツールは「視界」と「掩蔽」のみだ。

考えうる可能性として、ここでは大別して二つの方式を提案する。

線による処理

まず、愚直な実装として、何らかの方式に基づいてマップ上に線を引き、その線がユニットや地形によって遮られている場合に「視界」や「掩蔽」による射撃抑制が機能するものとする方式がありうるだろう。

この線の引き方としては、ヘックス戦闘ルールで提案した折れ線式が最良であると考える。というより、要件を満たせるものがそれ以外に思いつかない。直線はもちろん論外である(20マス先の目標と射点を結ぶ直線がどのマスを通るのか、任意の角度についてすばやく判断できる人間を想定してルールを書くのは実用的でない)。

線によらない処理

そのような形式を考察したうえで得る当然の結論は、ヘックス上で線を引くという操作自体がある程度の非直感性を孕まざるを得ないということだ。

なので、可能であるならば線によらない処理を考えるべきだろう。具体例として二つ提案する。

射程減少

上述の論をひっくり返すが、例えばファイアーエムブレムシリーズにおいては、全ての射撃攻撃の射程を高々2~3マス(最近はそうでもないが……)に制約することで、遮蔽の問題を完全に無視しながらもFCSの発揮するべき機能を発揮させている。SW2.5の遠隔攻撃に関する射程のことごとくをデフレさせれば、ゲームバランスの根本的な変更と引き換えに類似の機能が達成できるだろう。

索敵範囲

例えばWorld of Tanksでは、各ユニットごとに「索敵距離」が存在しており、自分あるいは味方ユニットの索敵範囲内に置かれて発見された敵しか有効に攻撃できないので、容易に発見できる敵前衛は攻撃できても、敵前衛による阻止を突破して後衛を直接視認できる懐まで潜りこめなければ敵後衛を直接攻撃はできないという、実質的な「陣形」機能の発揮が行われている。例えばユニットの移動可能範囲など、容易に算出できる何らかの数値でもって索敵距離に当てることで、同等の機能を発揮できるだろう。

線によらない処理の限界

以上のように提案はしたが、明らかに、これらの処理方式は「掩蔽」を適切に処理できないので、壁の裏側が射撃可能になりうるとかいったような、非直感的な結果をもたらしうる(射撃が壁に遮られるかどうか判定するために、線を引いてそれが壁と交わるか確認する以外の簡便で厳密な方式を提案できる人間はすぐに連絡してほしい)。

また、そもそもSW2.5の基本戦闘/上級戦闘/熟練戦闘ルールは明らかに「線による処理」をベースとしたFCSを採用しているので、線によらない処理で同等の機能を発揮させることは困難であるだけでなく、既にこれらのルールに慣れ親しんだプレイヤーのヘックス戦闘ルールへの移行を難しくするものでもあると考える。

結論

以上の議論により、衡量したとて折れ線式以外にうまく機能するFCSが思いつかないので、私の同卓者はあの一見奇妙ながらも十分に直感的な結果をもたらすルールをがんばって読み込んで理解してほしい。


  1. いわゆる弓やガン、射撃型魔法による「射撃攻撃」のみならず、目標への視界が通っていることによって行使可能になる起点指定型の魔法などについても、実質的には同じことであるので、ここではそのようなものも含めた広義のタームとして『射撃』という語を用いる。
  2. 起点指定型の効果なら掩蔽されていても視界が通ってさえいれば攻撃できるが、そのような例外をクローズアップして考えるのは、今回の論考においては特に意味がないので行わない。アイソアーマスクや挑発攻撃のような効果についても、FCSの一端を構成しているとは言えど、中核的ではないので、特段取り上げない。