二千三百五十五年

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週始論文: オートエンコーダを用いた碍子の故障診断【2023-06-26】

 読んだ論文の備忘録です。毎週月曜日に更新されます。

碍子。https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Long_rod_insulator.jpgCC BY-SA 3.0

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W. Liu, Z. Liu, H. Wang and Z. Han, "An Automated Defect Detection Approach for Catenary Rod-Insulator Textured Surfaces Using Unsupervised Learning," in IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, vol. 69, no. 10, pp. 8411-8423, Oct. 2020, doi: 10.1109/TIM.2020.2987503.

概要

 高速鉄道用の送電線などに用いられている碍子の検査を支援するべく、碍子の画像を用いた異常判別を自動化するための深層学習ネットワークを提案している論文。

応用上の意義

 この論文が書かれた中国では高速鉄道の整備に伴って検査需要が増大しており、自動化技術の導入が急務になっている。検査の効率化が鉄道の信頼性に果たす役割と意義については言うまでもない。

先行研究との比較

 先行研究は、碍子の特徴に合わせて異常判別アルゴリズムを手作りすることで問題解決を図る方式、教師あり学習によって異常を検出するネットワークを訓練する方式、教師なし学習を用いる方式の3つに大別できる。その中で、教師なし学習には auto encoder (AE) や generative adversarial networks (GANs) などの方式が用いられてきたが、ノイズや背景(碍子を撮影した画像のうち、碍子で無い部分。青空とか、電線とか)からの干渉に弱いなどといった弱点があった。論文では、そのような問題を解決した教師なし学習方式の異常判別AIが提案されている。

ポイント

 皿型形状が複数重ねられたような構造になっている碍子の画像をまずMask R-CNNで一つ一つの皿に分解し、そこにAEを用いた異常検出をかけて正常でないピクセルを同定。検出された異常ピクセルをDBSCANで分類にかけ、一定以上の要素数を持つクラスターが発見される≒一定以上の大きさを持つ異常が検出された場合に碍子を故障と診断する、というプロセスを取っている。複数のネットワークとアルゴリズムを組み合わせた面白い構造だと思うが、DBSCANで分類されたクラスターの要素数が碍子の故障状況の深刻度と対応しているのか、つまりDBSCANによる診断にどこまでの信頼性があるのかは検討しなければならないと思う。

実証手法

 ネットワーク中のそれぞれのモジュールの性能や訓練中の性能変化の時系列などを定量的に評価している。

批判

 何でなのかはよくわからないがPDF11ページの図がめちゃくちゃ重くてスクロールのたびに固まる。何とかしてほしかった。
 手作業でのアルゴリズムつくりを先行研究紹介の中で批判していたような気もするが、やっていることはかなり碍子の性質を前提とした手作業でのネットワーク設計に近いと思う。結果として高精度の異常判別モデルが作れているので意義は十分あるが、他の異常判別タスクにどれくらいの応用可能性があるのかが工学的な意義としては重要になってきそうな気はする。
 最終的に碍子の異常判別精度が100%であることが示されている(200例しか検証に用いていないので1000例10000例と積んでいけばエラーも吐くだろうが、まあ十分すぎるほどに高いといってよいだろう)ので効力については十分証明されているのだが、それ以外の性能評価指標が、ネットワークの一部を切り取っての精度評価しかなかったのも気になった。さらなる改善を目指すとしたら、問題点をより鋭敏に検出できるような(正答率100%ではどこに問題があるのかわからない!)指標の設計が必要になってくるのではないか。

感想

 Mask R-CNNの論文を前に読んでだいたいの構造を把握していたおかげで、そのMask R-CNNを用いているこの論文のアーキテクチャについても素早く理解ができたのでとても努力の価値を実感できてよかった。先端分野の知識全体に対して予習を行うのなんて到底不可能だとは理解しているが、まあ投入可能な範囲内の努力を頻出する被引用数クソデカ論文の理解に当てていくのもそんなに悪くない選択肢ということにはなるんだと思う。
 AEがよくわかっていないのでAEの応用例で古典的なやつをいくつか見ておきたい。